□波の生まれる音



はせ猫 さま

 

 ゾロは山間の生まれなので、海を見たのは比較的遅かった。
 10か、11か。そのくらいの時に、道場の仲間連中と合宿のような半分遊びのような、そんな感覚で出かけたのだ。
 山ひとつ越えて、高台の位置から海を見下ろした、あの一瞬の心の動き。
昼過ぎの高い陽を浴びて、きらきらと光を帯びて揺れる波を。
 うおー、とやはり海を見るのが初めての仲間達と歓声を上げた。我先に海へ浜辺へ、転げるように道を駆け下りた。
 泳ぐには少し早い時期だったが、裸足になって駆け回った。見た目の美しさ、広さ、水のしょっぱさと冷たさ。そんなのにはもちろん感激したが、何より、ゾロは波の音に強く惹かれた。
 山頂から既に聞こえてきていた、その寄せて返す水音に。同じリズムで繰り返されるその音に。
 ゾロは人の鼓動のようだ、と思った。






「しばらく・やんねぇって・言っただろうがこのクソマリモ!」
「いでででででで」

 ゾロは、ぎゅううううと力一杯両耳を抓られて呻いた。ピアスが捻れて相当痛い。

「ヤメロ!何すんだよ離せバカコック」
「文句言う前にてめぇこそその手を離しやがれエロサボテン!!」

 深夜の見張り台だ。夜番のゾロに、サンジが夜食を差し入れに来て、当然のようにゾロは夜食だけでなくコックの方も食うつもりで手を伸ばしたのだが。
 傍らに座ってくつろぎだしたので、彼の方もその気なのだろうと思ったのに、白いシャツに包まれた脇腹を撫でたら耳を掴まれた。狭い見張り台では、足技より確実な攻撃だった。

「…しばらくってのはどのくらいだよ。もう4日経ってるじゃねぇか、最後にヤッてから」
「しばらくってのはしばらくだ!俺がいいって言うまでだクソバカ!」

 やっとサンジの手を耳から引き剥がして、痛む耳たぶを指先で撫でながら文句を吐いた。

「いそいそ隣りに座るから、もういいのかと思うじゃねぇか」
「…ヤる時しか隣りに座っちゃいけねぇのかよ」

 あ。と思った。サンジの眼がじとっとして、巻いた眉尻が心持ち下がる。これはどうやら自分の言い方が間違ったらしい。
 そんな意味じゃ無ぇ、と前置きしてから、

「つか、何でいきなりンな事言い出したんだ?何かあったのか?」

 真正面から顔を覗きこんで問いただす。
サンジの気まぐれは骨身に染みているので、嫌だ気が乗らねぇ、というならその気になるまで待つつもりでいるのだが。
 何か理由が有るのなら聞いておきたい。惚れた相手にいつまでもオアズケをくらうというのはなかなかにシンドイものである。しかもこうして、薄いシャツ一枚の姿で深夜二人きり、なんて美味しそうなシチュエーションの時に。
 サンジは幾分頬を赤らめ、数十秒逡巡してから、顔を覗き込むゾロから目を逸らして呟いた。

「…その、4日前の時…もうちょっとでナミさんにバレるとこだったじゃねーか」

 んん?とその言葉にゾロは首を傾げた。
最後にヤッた4日前。
 場所はラウンジだった。夜中、台所仕事を終えたサンジをそのまま押し倒したのだ。
 盛り上がってのっぴきならない状態になった時、倉庫から足音がした。
明らかにサンジの身体が竦んで、変に締め付けられてゾロは誤爆しそうになったのだ。
 わたわたとサンジがうろたえてゾロの下から這い出そうとするので、ゾロは繋がったまま抱えて窓から死角の位置に移動してやった。
 コツコツと、階段を上がる硬質な足音はナミかロビンのハイヒールだ。その足音はラウンジをぐるっと回って更に上…みかん畑へ。
 という事は、ナミだ。
 サンジがもがきだす。「嫌だ嫌だいったん抜け」と潜めた声で騒ぐのだが、お互いそんな悠長な状態ではない。

「別に平気だろ」
「ばか、きっとナミさん風強いからみかんが落ちてねぇか見に来たんだ!」
「だったらすぐに部屋に戻るんじゃねぇのか」
「落ちたみかんキッチンに置きに来たらどーすんだー!」

 ひそひそと交わされる会話。
ああもうめんどくせぇな、と手っ取り早く黙らせるためにゾロは腰の動きを再開した。途端、「アッ」なんて色っぽい声がサンジの口から漏れる。
 さすがに声を聞かれたらまずいか、とゾロは、その大きい手でサンジの口を塞ぎ、行為を続けた。
 涙目で、ゾロの指の隙間からふっ、ふっ、と息をこぼす様子はもうとんでもなく色っぽかった。
 ―――そんなのを思い出して、下半身が兆しそうになり、ゾロはぶるっとひとつ頭を振る。

「―――あれがそんなにヤバかったか?別にバレなかったじゃねーか」
「…運が良かったんだよクソ野郎…」

 煙草を噛み締めてサンジが吐き捨てる。
何をそんなに気にしているのか、ゾロには皆目分からない。
 結局ナミはラウンジには入ってこなかったし、どちらにしても、ドアには鍵をかけてあった。
ルフィの摘み食い防止に深夜鍵をかけておくのは別に珍しくないので、もし入ってこようとしていてもドアが開かないとなれば、ナミはいぶかしむ事無く女部屋へ戻って行ったろう。
 自分は他の連中にサンジとの関係がばれても一向に構いはしないが、彼は女好きを自任している
手前、仲間に剣士とホモ行為をしています、なんて知られたくないらしい。
 だから、一応ゾロだって考えているのだ。

「次の日、ナミさんに”夜中に心配でみかんもいでおいたの。サンジくん、これで何かデザート作って”―――って言われた時の俺のいたたまれなさがお前に分かるか!?」
「……」

 分かるわけが無いので、ゾロは黙っていた。すると、サンジはこれ見よがしにふーっとため息をつき、

「…ああ、てめぇみてぇなデリカシーゼロのクソ藻類マリモに細やかな人間様のココロモヨウが分かるわけねぇよなぁ…」

 さすが、ここまで言われればむっとする。言ってる意味は分からないが。

「そうだ!しかもてめぇ、あの後ナミさんが居なくなってからも俺の口塞いで続けやがって!変態!」
「…そりゃてめぇがあんな色っぺぇ顔すっからだろ」

 てめぇだって感じてたじゃねぇか、としれっと言い返すゾロに、月明かりにもはっきり見分けられるほどカッとサンジの顔が赤くなる。しばらく口をパクパクさせてから、

「うるせぇうるせぇ!とにかくしばらくはヤんねぇからな!反省しやがれクソマリモ!!」
「……」

 まぁ、いつもの事なのだが。どうしてこうも自分達はいさかいが多いのだろうか。
 多分に、ゾロの不器用さ、無愛想さが問題なのは自覚している。それにしたって、サンジの方も決して素直ではないし、意外に屈折しているし、扱いにくい事はなはだしい。
 しょうがねぇか、とこれ見よがしではないにしろ、ゾロも先ほどのサンジと同じくため息をつき、頭をガリガリと掻いた。そのゾロの態度に、サンジがわずかに怯んだ様子を見せる。
 ちょっと前の自分なら、気づかなかったであろうその様子。
ここで、「分かった。今日はヤんねぇからてめぇはさっさと下行って寝ろ」とかゾロが言ったりすれば、その怯んだ様子はもっと寂しそうな気配になるだろう。かなり、それは間違いない。
 それにゾロだって、別にヤるためだけにこの気の合わないクソコックと二人きりの時間を持ちたい訳ではないのだ。いやもちろん事情が許すなら一日中だって抱きたいけれど、それはもう体力の続く限りヤリ殺さない程度にヤりたいけれど、ダメならダメでいい。
 サンジが笑ったり他愛も無い事を話したりするのを間近で見て聞いていられるなら、それだけで結構幸せなのだ。
 ついでにちょっと触らせてくれたら言う事無い。
 ゾロは手を伸ばして、微妙にぐる眉を下げているサンジを抱き寄せた。

「…ッ、てめ、だからヤんねぇって…!」
「ヤんねぇよ。せめて触らせろ」
「ああ!?」
「いいだろ、そんくらい。せっかくこうやって隣りに居んだから」

 半ば強引に、ゾロはサンジを抱え込み膝に乗っけるようにした。サンジの胸元に頭を持たせかける。煙草混じりの、サンジの匂い。それから体温の温かさ。そして、心臓の音。
 心地良い。
 サンジはしばらくもじもじしていたが、本当にゾロが何もしないようだと分かって大人しくなった。

「…ったく、しょうがねぇな…」

 肩に、サンジの腕が回る。その程好い重みも、心地良い。
何となく、二人とも無言になった。言い合っていたのが黙ると、自然停泊しているこの海の波の音が耳に戻ってくる。
 凪いだ夜半の波音は穏やかで、一定のリズムでメリー号の船体を打ち、それに連れてゆらゆらと見張り台が、ゾロが、サンジが揺れる。
 母親にあやされている赤ん坊はこんな気分かもしれねぇなぁ、とゾロは眠くなりそうな意識で思った。

「…コラ。寝るなよマリモ」

 ぽんぽん、と背中を軽く叩かれ、その感触は優しすぎて返って眠くなりそうだ。完全に力を抜いて、サンジの胸に頭を押し付ける。とくん、とくんと心臓の音が直接響いてくる。

「見張りのくせに…寝るな。何か喋れ」

 サンジの声は柔らかくて深い。凪いだ波音と同じくらい、いや、それ以上に心地良い。
 これは欲目も入っているのだろうかとぼんやりゾロは思った。

「おいマリモってば。…ゾロ」
「あー」
「あー、じゃねぇよ」

 声が笑む。サンジの身体が小さく揺れる。
何か喋れと言われたって、自分は口下手だ。何を話せばいいだろう。

「あー。…お前、初めて海見たのっていつだ」
「あ?海?」

 唐突なゾロの言葉に、サンジは訝しげに問い返す。

「おう。海」
「…初めてっつってもなぁ…物心ついた時から船の上だったからな。覚えてねぇよ」
「そんな頃から海の上のコックか」
「ああ。陸地より海に居た方が長ぇ。…で?いきなり何でンな事訊くんだ?」
「俺が海初めて見た時、波の音が人の心臓の鼓動に似てるって思ったんだ」

 サンジが、胸元のゾロを見下ろし、無言でそれで?と促す気配がした。

「それで…海に出て、今でもそう思う。心臓の音と似てる」

 サンジの鼓動を聞きながら。

「…似てっかなぁ。こんなザァザァしてねぇだろ、心臓の音って」
「…そういやそうだな」
「んだてめぇ、テキトーかよ」

 サンジがまた笑う。胸元が揺れる。心臓の音も、楽しげに揺れる。

「何でだろうな。そう思った」
「…ま、確かに命の音だよ。海の音も、心臓の音も」

 何故だろう、サンジの口からだと”命の音”なんて大げさな言葉も、厳粛な響きを持つ。彼は食材の命を絶つ時、感謝と敬虔な気持ちを失わない。だからだろうか。

「”命の音”な」
「ああ。心臓は人の命の源だし、海は全ての生き物の命の源だ」
「初めて海見たのが、幼なじみ死んだばっかりの頃だったから、そんな風に思ったのかもしれねぇな」

 ゾロが何気なく口にしたその言葉に、サンジの身体が強張った。

「…どうした?」

 顔を上げてゾロが問うと、サンジは形容しがたい表情をしている。

「…幼なじみって、その刀の持ち主だった子か?」
「おう」
「波の音聞くたびに、思い出したりすんのか?」

 ゾロはちょっと首を傾げ、

「…いや。波の音は関係無ぇ。わざわざ思い出すもんじゃねぇよ、俺にとってあいつは」

 常に心に在る存在なので。

「ふーん…」

 前髪を揺らして頷き、サンジは黙り込む。
おや、とゾロは思う。
 サンジの鼓動が、心持ち速くなった。

「どうした?」
「…何が」

 とくんとくんとくん。

「心臓。速くなったぞ」

 途端、サンジがもがきだした。

「おい、何だよ」
「うっせ、離せ。もう俺ぁ寝る!」

 そんな、いきなり。

「もうちっと居ろよ」
「嫌だ、はーなーせ!」

 サンジが暴れる。ゾロは意地になってぎゅうぎゅう抱き締めて拘束した。
とくとくとくとく。
 心臓の鼓動は、ますます速く。
しばしごそごそ暴れて、狭い見張り台での短いとっくみ合いは、ゾロに軍配が上がった。

「…てめ、は卑怯だ…」

 もがくのを止めて、やや息を乱して、サンジが呟く。

「何がだよ」
「だって」

 俺の心臓に訊くなんて、と拗ねたように小さい声で言う。
意味が分からなくてゾロは戸惑う。
 サンジの心臓の音。
やっぱり、波の音に似ている。何度も、何度も繰り返し、波が寄せて、乱れる時も有れば穏やかに凪ぐ時も有り―――。

「…生きてんだなぁ、お前は」

 するりと、ゾロの唇からそんな言葉が漏れた。
ととん。
 速いリズムだった鼓動が、その一瞬小さく跳ねた。

「なぁ、お前が生きて、この船に乗ってて、俺は良かったって思うぜ」

 ひどく、安心する。力強く耳を打つ、この鼓動。サンジの心臓。
止まる事が無いといい。この海が流れ続けるのと同じように、この鼓動もずっと打ち続けているといい。
 自分の鼓動が止まった後も、ずっと。

「…おい」

 剣呑な声が降ってきたので、ゾロは胸に押し当てていた顔を上げた。
真っ赤に頬を染めてしかめっ面、というある意味器用な表情のサンジが居た。

「この、クソマリモ。サボテン。ハゲ。エロ藻類。緑アタマ」
「……コラ待て」

 際限なく続きそうな悪口をさすがに眉をしかめて遮ると、

「うるせーうるせー、クソ剣士!」

 悪態をつきながら、がばぁ!とサンジがゾロの頭を抱き締めてきた。
言動と行動に一貫性が無い。共通性が無い。支離滅裂だ。分かんねぇ。
 お手上げの気分で大人しく首を締められていると、幸い窒息する前に抱きつく腕は解かれた。

 「……」
 「…コック?」

 解いた手を今度はゾロの頬に置いて、じっと見つめてくる。
あんまりそんな、赤く染まった頬とか潤んだ目とかガキみたいに引き結ばれた唇とかで迫られると身体が―――正確には下半身の一部分が―――暴動を起こしそうになるからカンベンしてくれ、と
ゾロが考えた時、おもむろにサンジは口を開いた。

「…ヤるぞ。クソ野郎」
「あ?」
「二度言わせんな!ヤるって言ったんだエロマリモ!!」
「ヤるって…」

 セックスをか、と訊き返そうとしたゾロの唇は、言葉を発する前にサンジのそれに塞がれた。





 ヤんねぇって言ったのはてめぇだろ、なんて野暮はゾロは言わない。
何故かは分からないが、サンジがソノ気になってくれたのは何よりだ。
 くちゅくちゅと舌を絡め取ると、くふん、と鼻にかかった息が漏れて、子供っぽいはずのそれがやたらとゾロを煽る。
 膝の上に抱えた姿勢のまま、サンジの衣服を乱す。全部脱がしたら寒ィかな、とゾロにしては気を遣って、シャツの前ボタンを外すだけにした。
 月明かりに浮かび上がるような白さ。思わず生唾を呑む。手の平で撫で上げて感触を楽しむと、ゾロの指が這った部分からじわじわ赤みが増す。

「…ジロジロ見んなよ、エロ剣士…」
「暗いからジロジロ見なきゃ分かんねぇ」
「何だそれ…」
「じゃ、明かりが点くとこに場所変えるか?」

 ゾロはごく真面目に提案したのだが、何故かサンジは思い切りぶんぶんと首を振ってその提案を却下した。却下されたので、では視覚より触覚でサンジを堪能しよう、とゾロは赤く色づいた首筋に唇を這わせた。

「あ…ぅ」

 ざわっ、と肌が総毛立ち、差し出すように咽喉が仰け反る。くまなく舐めまわしながら、指で小さい乳首をきゅ、と捏ねる。ビクッと上半身が波打った。

「ゾロ…」

 は、は、と乱れる息の間から実に悩ましく名前を呼ばれ、既に臨戦体勢に入っていたゾロの下肢が完全に戦闘状態に入ってしまった。ちょっと、もう、何か、我慢できなさそうだ。
 急いた動作でサンジのズボンのジッパーを下ろす。寝る前だったせいか、ゆったりしたサイズの服を彼は着ていたようだ。ゾロの膝に跨ったままでも、太腿の半ばほどまでずり下げられた。いつものぴったりしたスーツのスラックスでは、こうはいかない。
 ゾロの唇は首筋を下り、鎖骨の男にしては細い骨を噛み、指でいじって尖らせた乳首に辿り着く。

「んあッ、あ、は…ぁ」

 あがる嬌声と共にびくびく震える胸を執拗に舌と歯でなぶりながら、手を後ろに回した。片手は腰に回してサンジの体を支え、もう片手は腰を伝って奥まった部分へ。
 早く突っ込みたくて気は逸るが、ソコは狭くて慣らさなければどうにもならない。サンジの泣き顔はものすごくそそるが、痛みで泣かせるのはいただけない。
 舐めて濡らした指を、少しずつ埋めていく。それに合わせるように、サンジの性器がピクピク揺れてゾロのみぞおちに当たる。こっちもいじってやりたいが、それまで自分がもちそうにない。
 後口を穿ちながら左側の乳首にしゃぶりついていると、唇に直接、速い鼓動が伝わってくる。
 とっとっとっとっ。
 もう、これ以上無いほど速い。首から胸まで、血の色が透けて真っ赤だ。

「…もう、いいか」

 ちっと痛ぇくらいだ、とゾロが唸って自分のモノをズボンの前を開けて掴み出す。本当に、ズキズキ痛いくらいに勃ってしまっている。4日ぶり、というせいもあるのかもしれない。

「…元気すぎ、お前…」

 へにゃっと笑って、言外にサンジがOKをくれた。

「てめぇがオアズケすっからだ」
「だぁかぁら。そもそも悪ィのはお前…」

 言いかけたサンジは、ぐい、と宛がわれた切先の熱さと硬さに咽喉を鳴らす。

「ん、やだ、ゾロ、この体勢…」

 ズボンをずり下ろされ、尻だけあらわな格好で、ゾロの腰の上に跨る体勢。いわゆる対面座位。

「何で」
「だ、だってよぅ…」

 上手く抗議の文句が出てこないのか、ゾロの肩に手をやって抗いながら口ごもる。
 うわーカワイイ。
凶暴なクソコックのくせにカワイイ。
どういう生き物なんだてめぇは。
頭の中でサンジが憤死しそうな言葉を並べ立て、ゾロはその抗いを封じた。

「いいだろ、このまま」

 お前の心臓の音聞かせろ。
目を合わせてそう告げると、サンジが子供のような表情でぎゅっと目を閉じた。





「あっ、あっ、あ…っ」

 貫いて上下に揺さぶる。柔らかい内壁に締め付けられ擦られる強烈な快感に目も眩む。突き上げるたびにサンジが漏らす喘ぎにも。
 こいつを悦くしてるのは俺だし、俺が気持ちイイのは抱いてるのがこいつだからだ。
 それを、強く感じる。
 サンジの腰を引き寄せて抱き締め、さらに身体を密着させる。

「や、やだ…ってば、ゾロ…」

 息も絶え絶えに、サンジがかぶりを振って胸元からゾロを引き剥がそうとする。

「何が、イヤなんだ」

 ゾロも息を荒くして、引き剥がそうと首元に当てられたサンジの手を握り、興奮の赴くまま指や甲を舐める。節高の指に舌を這わすと、ゾロを咥え込む内側がきゅう、と締まった。

「お、俺の、心臓、直接、訊くな…っ」

 乱れた息と共にこぼされる声は要領を得ないが、サンジは心臓の音を聞かれるのが嫌であるらしい。
何となく、ゾロはそれが分かった。
 どちらにしても、さっきのように静かに抱き合っていた時とは違って、こうして重なって腰を突き上げて二人とも揺れている状態では、まともに心臓の鼓動など聞こえるわけがないのに。
 サンジを揺さぶるのを、いったん止めた。いきなり止められて、サンジの下腹が細かく震える。
 耳を、胸に押し当てた。
とっとっとっとっとっ。
 命の音。波が揺れる音に似た。

「ゾロ…」

 見上げれば、困ったように眉をしかめ、頼りなく自分の名前を呼ぶ顔が有る。
舐めて掴んだままだったサンジの手を、ゾロは自分の胸に当てた。

「ゾロ」
「―――俺も、同じだ」

 とっとっとっとっとっとっ。
ちょっとやそっとでは乱れないこの心臓も。サンジに触れるときなら。
 命が。
多分、今交わっている。
 ふわ、とサンジの目が綻んだ。
とても自然に、サンジの唇が下りてきてゾロの唇を塞ぐ。
 その瞬間自分の心臓がとん、と跳ねたのも、きっと彼に知られてしまっただろう。





 波の音はやまず、繰り返される。はるか昔からその流れもたゆたいも荒ぶるうねりも変わることなく。





 サンジがゾロのシャツを汚して、ゾロはサンジの中に大量に吐き出して、それでも離れがたい何かがあって堅く抱き合う。はぁはぁと息を乱し、ぴったり重なり合う上半身の揺れは鼓動と等しい。

「…ゾロ」
「ん?」

 ゾロの肩にくったりと顔を埋め、サンジが囁く。

「一度しか言わねぇから、よく聞いとけ」
「……?」

 さんざん喘いで、掠れた声はふしだらだが、口調はとても真摯だ。

「俺は、生きてて、お前とこうやってえっち出来て、すげぇ幸せだ」
「――――――」
「お前の大事な幼なじみちゃんには、いつか俺もお前も死んじまったら、ちゃんとお前を返すけど、それまではお前は俺んだ」
「…サンジ」

 どこもかしこも、頭も胸もいっぱいで、サンジの名を呼ぶ事しか出来ない。
ゾロはサンジの顔を見たいと思ったけれど、彼はますますぎゅうぎゅうとしがみついてゾロの肩に隠れてしまって、叶わなかった。
 だけど、その言葉だけでもう充分だった。
しがみつくサンジの胸が、鼓動の響きを伝える。
 ゾロは目を閉じてそれを聞き続けた。
海の波音と溶けて命の音がひとつになってしまったかと、思った。









 数日後。
皆で夕食後にラウンジでくつろいでいる時、何かの話題の流れでチョッパーがこんな事を言った。

「…体内音って言って、自分の体の中の音を、自分で聞くのと、外から他の人が聞くのとでは全然違うんだよ。ほら、自分の声を録音して聞いてみたら、普段自分に聞こえてるのとは全然違ってて、ヘンに思ったこと、ない?外は、空気の振動があるから響くんだ。…あ、そうだ、赤ちゃんがお母さんのお腹にいる時、お腹の中で聞いてるお母さんの心臓の音はね、何かざぁざぁしてて…ラジオのノイズとか、波の音に似てるんだよ」

 それを聞いて、サンジが何やら物言いたげな顔をした。
案の定、その後二人きりになった時。

「なーるほど、てめぇの”心臓の音は波音に似てる”ってのは、胎内回帰願望の現われでしたか。ママが恋しいんでちゅね、剣豪さまはー?」

 とひたすらからかわれた。
なのでお返しに、赤ん坊は絶対やらないような事をひたすらしてやった。



END



はせ猫さんから甘えんぼ剣豪な座位をイタダキ!
ネット復帰以来なんと「座位しか書いてない」というはせ猫さんも大概な座位スキーだと思うのですがどうか。(聞かれても)
萌えのつまったお話をありがとう…私こそ下僕になってやってもいいですよ。(偉そうだな)(2005/03/16)


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