□持ち込む までの顛末



かなや さま

 

(・・・ぴち?)

 一歩踏み入れ、そこで呆然とサンジは立ち尽くした。
 暫くぶりの陸地。くじ引きでゾロと同じ部屋になったのはアタ リかハズレか見極めが難しいところだが、それにしたってここ は、ずいぶん御無沙汰のマトモな宿だったはずだ。
 それがなぜ。
 追い討ちをかけるような、ピシャアアン、と残像が灼付くほ どの稲妻。雷鳴と代わる代わるの閃光に映し出される、灯りの 点いていない部屋のあまりの惨状に、くらくら目眩がする。
 よろめく足取りで歩み寄り、凄まじい風に開け放たれていた 窓を、びしょ濡れになりながら、渾身の力で閉めた。
 遠くなる外の音。嵐。


「テメェという奴はーーーッ!」

 ぬふあっ、とかなんとか欠伸しながら、いまさらに目を覚ま したらしいミドリのアタマに、靴の踵をガツンと落とす。

「何しやがンだこの−−」
「−−どーして寝られンだ、この状況で!」

 寝起きのムスっとした表情のまま、ゾロは辺りを見回して、流 石に驚いたカオになった。
 客から料理が不味いと云われると嘆く宿屋の女主人のために 、さっきまで延々とシンプルで美味しい料理のレシピを伝授し ていたサンジを見限って早々に部屋に引き上げてから、そのままぐ ーすか寝ていたものらしい。口の中にも降り込んだろうに、寝 汚さには恐れ入る。
 きちんと戸締りしていなかった窓から数時間にわたってハン パじゃない豪雨が降り込んだ所為で、部屋の中は水浸しだ。小 さい魚なら泳げるだろう。
 当然ベットの上も。

「...どけ」
「あァ?」
「俺がそこに寝る」

 怪訝そうなゾロを押し退けた。ベッドの上、濡れていない部分 は、完璧なゾロのシルエットをしている。

「アホ抜かせ」
「アホはテメェだ」
「アヒルにだけァ云われたくねェ」
「マリモの寝言なんざ聞こえねーな」

 ドツキアイにはどうせキリがない。実力伯仲、丁々発止。
 蹴りを2つ難なく躱され、拳を2つ余裕で受け流したところ で、チっ、と舌打ちしてサンジは臨戦態勢を解いた。

「これで勘弁しといてやる」
「......」
「なんてココロの寛い俺様だ。崇めやがれ、クソ野郎」

 ここは死守すると云わんばかりにふんぞり返って胡座をかい たところへ、蹴るとみせかけて跨るなり座り込まれては、いく らゾロでも度肝を抜かれるものらしい。
 動くな落ちるだろが、なんて騒ぎ立てて、正面から巻きつけ てみる両腕。

「...テメェ」
「文句あっか」
「なにテレてンだ」
「るせー」

 俺は寝る、と宣言して硬い首筋を枕がわりに、こてりとアタ マを凭せ掛ける。

「喰い殺すぞ」

 どーしたアホみてェにカワイイじゃねェかオイ、とフザケた ことをほざきながら、条件反射で背中を支えていた掌が、じわ り降りてくる。指からするりと忍び込む。
 こんなときばかり器用に片手でベルトを引き抜いて、つるり と剥かれるまでの秒読み。

「寝るって云ってンだろが」
「だから寝てやろうってンじゃねェか」


 濡れないですむのはここだけのはずなのに。
 どうせ溺れる。なんてフシダラ。



END



かなやさんからさんからイタダキ!
勃発まで秒読みな座位をありがとうございます。
お昼休みを費やして(…)したためたSSに凝縮された、愛とセンスを堪能させて頂きました。
かなやさんラブ!ラブ!(ファンコール)(2005/02/02)


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